Q1 「気・血・水」って何?
Q2 中医学でいう“病気”とは?
Q3 現代医学と漢方医学はどう違うの?
Q4 中医学って漢方医学のこと?
Q5 病気を治すのは自分?
Q6 中国漢方薬の特徴は?
Q7 漢方薬は何からできている?
Q8 生薬って何?
Q9 漢方薬の言葉は難しいのですが?
Q10 好転反応って何?
Q11 漢方薬には副作用はないのですか?
 
Q1 「気・血・水」という言葉をよく聞きます。何ですか?
中国では古くから、人体は「気・血・水」の三つが正常に流れている状態が健康とされます。「気」は全身を流れる生命エネルギー、「血」は全身の細胞に酸素と栄養を運ぶ血液、「水」は体を潤す体液を基準に考えます。健康なときは気・血・水が過不足なくスムーズに流れていますが、そのバランスが崩れるとさまざまな不調が起こります。漢方では、気・血・水の乱れを整えることで、症状を根本から改善するのです。
Q2 中医学でいう“病気”とは?
人間の体は本来とても大きな生命力があり、悪いものに対する抵抗力があります。この力が“正気”です。それに対して生命力を弱めたり奪う力が“邪気”です。細菌やウイルス、不安や心配、精神的ストレスも邪気です。邪気が入り込んでも、正気の力によって体内の各臓器の機能的バランスが保たれている状態が“健康”、正気が弱まったり邪気が入り込むことで体内の機能的バランスが崩れた状態を“病気”というのです。
Q3 現代医学と漢方医学はどう違うの?
現代医学(西洋医学)と漢方医学では、次の表のように病気や健康に対する考え方が大きく違います。
西洋医学 漢方医学
考えの基盤 近代西洋科学 中国古代自然哲学
何を見るか 部位別に外に表れる症状を見る。 全体と病人を見る。病人の体質を重視する。
治療 症状をなくす。風邪なら解熱剤や咳を抑える(ウィルスと戦う)薬を処方する。 自然治癒力を高める。風邪なら漢方薬、薬膳、栄養と休養をとってウィルスと戦う体力をつける。
心と体の関係 心と体は別もの。心は心の専門家が見る。 心と体は一体。体と心は相互に影響し合うという前提で原因を見る。
治すのはだれか その分野の専門の医師 病人本人。医師は援助役。
薬の処方
均一的な治療。同じ病気なら同じ薬。

個性を重視した治療。病人の体質によって同じ病気でも違う薬かも知れません。
 
Q4 中医学と漢方医学は同じですか?
そうです。漢方は漢方医学のことであり、中国で誕生・発達した医学です。日本に伝わって変化したものを日本漢方と呼び、中国漢方は本場の中国のものです。中医学は中国の漢方医学を略した呼び方です。中医学の範囲は広く、漢方薬だけでなく、鍼灸、経絡・ツボ理論、陰陽理論など多岐に渡り、かつ奥深いのが特徴です。
Q5 漢方では病気を治すのは自分自身ということですが?
そのとおりです。人間には高度な自然治癒力がありますから、体内のバランスが多少崩れても自然と治りますが、大きなアンバランスが生じたときは治療が必要です。基本的には弱った正気を補い、入り込んだ邪気を追い出す。自然治癒力を高めるために中国漢方薬が使われます。あくまでも病気を治すのはあなた自身であり、治療や漢方薬はそのお手伝いをするのです。
Q6 中国漢方薬の特徴はどんなものですか?
西洋医学では単一の成分による薬理作用を研究しますが、漢方医学では複数の生薬の配合で多成分の複合的な薬理作用の効能を見ます。中国では3000年に及ぶ壮大な歴史の中で、自然界の何に薬性があり、またどんな生薬がどんな病気に効き目があるか、何と何を組み合わせれば効果がどう変わるか、何を加えれば副作用をなくせるかという厖大な実験を積み重ねてきました。中医学=中国の漢方医学は、この厖大な実験と研究の成果を体系化したものです。
また漢方の治療では患者一人ひとりの体質の違いも重視し、同じ症状でも人によって処方する薬の種類や量は異なります。体質を見極め、程度や症状に合わせてその人に適した方法で処方するのです。
Q7 漢方薬は何からできていますか?
中国漢方で使われる薬はすべて自然界に存在するものが原料です。植物はむろん、動物や魚、昆虫、鉱物もまた中国漢方薬の原料になります。使う部位も多様で、植物でも花、葉、根、茎、種子、動物も骨や皮や内臓や角などあらゆる部位があります。ただし天然自然のものはイコール漢方薬ではありません。漢方薬になるのはあくまでも薬性のあるもの、単独あるいは他のものと併用して人体に用いたとき効用のあるものです。
Q8 生薬って何ですか?
生薬というのは、先に挙げた漢方薬の原料となるものです。私たちが日ごろ食べているミカンやシソやショウガもすべて生薬です。中国では生薬を広く中草薬といい、その中で伝統医学(中医学)で用いる生薬を中薬、中国各地の民間薬を薬草と呼んでいます。同じ生薬でも、産地や季節によってその成分や効能はかなり違うものがあります。
Q9 漢方薬ではいろいろ難しい言葉を聞きます。教えてください。
漢方薬は奥の深い世界ですが、次の言葉を知っておくと、理解に役立ちます。

四気・五味(しき・ごみ) 
薬性と薬味のことです。食べ物にも使います。
四気は生薬に寒、熱、温、涼の四つの薬性質があること。熱に侵されたときに寒性、涼性の生薬や食べ物をとったり、逆の場合は熱性のものをとって体を温めるなどです。五味は酸、鹹(塩辛い)、甘、苦、辛の五つの味で、甘味は滋養・強壮や薬性を調和する働きがあるとか、苦みは消炎作用や解毒作用があるなどです。
このような薬性と薬味(合わせて性味といいます)は生薬の効能や副作用に結びつき、生薬の配合における理論的根拠になっています。

昇降浮沈 
薬物が体内に入って作用する方向性を表現します。昇は上昇、降は下降、浮は発散、沈は鎮静や収斂の作用です。昇浮薬には発散、発汗、散寒、催吐などの効能があり、沈降薬には、瀉下、潜熱、利水、止咳、収斂などの効能があります。

帰経(きけい) 
薬物が人体のどの経絡やどの臓器に作用するかを表したもの。心経、肝経、肺経、腎経、胃経、膀胱経、大腸経、小腸経などがあり、心経ならば心臓に入る、胃経なら胃に入るということです。

効能 
漢方医学における治療効果を総括的にとらえたもので、臨床経験に基づく内容です。漢方では、おおむね次のように効能が分類されています。
発汗薬、瀉下薬、清熱薬、利水薬、除風湿薬、温裏薬、化湿薬、理気薬、活血薬、止血薬、補気薬、補陽薬、補血薬、補陰薬、固渋薬、安神薬、開竅薬、鎮痙薬、化痰薬、消導薬、駆虫薬、外用薬
※漢方生薬の効能は、現代の薬学的な研究による薬理作用と一致することもありますが、詳しいことはほとんど解明されていません。現代化学では単一の成分による薬理作用を研究するのに対して、漢方薬の効果はクルードな生薬やそれらの配合といった多成分の混合物の薬理反応によるためです。

炮製 
修治ともいって生薬の加工処理のことです。薬物の性質を変えて治療効果を高めたり、薬物の毒性や副作用を緩和・除去したり、保存しやすくするための方法です。

Q10 「好転反応」という言葉をよく聞きます。何ですか?
漢方薬を飲んでいると、一時的に予期しない反応が表れたり、かえって悪化したかに見え、その後回復に向かうことがあります。この一時的な症状が好転反応です。これは病がよくなる前兆として、体の中にたまっている毒素が出てきたために起こると考えられています。しかし好転反応と一般の薬の中毒や副作用との区別は困難です。自分で判断せず、専門家に相談することが大切です。
Q11 漢方薬には副作用がないという人がいます。本当ですか?
そんなことはありません。西洋も東洋も、毒性や刺激性のあるものを病気の治療に積極的に利用してきたのが、そもそもの薬の歴史です。自然界には毒性のある動植物や鉱物がたくさんあって、中国における伝説上の薬祖神、神農は「百草を嘗め、一日にして七十毒に遭う」と記しています。
ただ、漢方医学でいう「毒」は、今日の毒性の概念とはちょっと違い、その薬味や薬性が激しいもの、薬物の反応が急峻なものを広く含みます。副作用を起こしやすいのもその一つです。中国最古の薬物書「神農本草経」では生薬が上品、中品、下品に分類されており、上薬には毒はないが、中薬や下薬には毒があるから適宜配合して用い、長期の服用を避けることと明記されています。漢方ではこのように毒性や刺激性を低減するための修治法や配合の工夫が膨大に蓄積され、現代にいたっているわけです。